漢方治療の実際
めまい★

 漢方で治療の対象となるめまいは、主として機能的疾患による場合です。
めまいの原因は、漢方的には、気、血、水との関連でとらえます。気鬱で胸脇苦満があれば柴胡剤を、胸脇苦満がなければ厚朴、桂枝などの配合された薬方を用います。めまいでは水毒の関連した病態が多く見られますが、その場合には茯苓、朮、沢瀉等の配合された薬方を用います。瘀血が原因と考えられる場合は、駆瘀血剤をそれぞれの虚実に合わせて撰用します。

めまいの頻用処方
 〔気〕
①半夏厚朴湯
  気鬱の代表的方剤。咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)といわれる咽の詰まったような
  異物感が特徴。
②加味逍遥散
  女性の不定愁訴を伴う場合が多い。胸脇苦満と瘀血の腹証が目標。
③桂枝加竜骨牡蛎湯
  神経過敏、精神不安があり、気の上衝(のぼせ)がみられる。

 〔血〕
①女神散
  中間症から実証で、のぼせ、不安感など、いわゆる血の道症と呼ばれるものに用いる。
②加味逍遥散
③当帰芍薬散
  虚証で冷え性。瘀血と水毒が合わさった症候に用いる。

 〔水〕
①半夏白朮天麻湯
  胃腸虚弱で、頭痛、頭冒感などを伴う。
②沢瀉湯
  激しい発作性のめまいに用いる。
③苓桂朮甘湯
  めまい、立ちくらみ、身体動揺感など、めまいの第一選択的方剤。
④五苓散
  口渇、尿不利があり、頭痛、嘔気、嘔吐、下痢など水毒の症状に用いる。
⑤当帰芍薬散
⑥真武湯
  陰証の方剤で、身体動揺感、下痢、冷えなどがある。


<めまい、身体動揺感に四逆散合五苓散が有効であった症例> 

症例:38才女性
主訴:めまい、身体動揺感

現病歴:平成X年1月頃より主訴出現。内科、耳鼻科に受診するも改善せず、漢方治療を希望して平成X年4月初診。めまいは、座っていても突然クラッとした感じがあるが、回転性のめまいは無い。歩いていても左右どちらかに寄っていってしまう。また、最近蕁麻疹、乾燥性の湿疹が出る。

現証:身長156cm,体重65kg 血圧120/70mmHg  脈証:沈、緩。腹証:腹力中等度、右胸脇苦満を認める。右上腹部に腹皮拘急を認める。尿利減少はないが、口渇あり。肩こりが強い。

経過:腹証により四逆散をまた、口渇めまい等より水毒による症状を疑い五苓散を考慮し、四逆散合五苓散として投与した。2週間後クラッとするめまいは消失、肩こりも楽になったが、歩行時の身体動揺感は消失せず。また、湿疹による掻痒感の訴えあり、前方に晋耆3g荊芥2g連翹3gを加味。1ヶ月後湿疹は改善。めまいはなく、ふらつきも軽減している。その後も漢方薬を飲んでいれば体調もよいが、少し服薬を休むとめまいが出そうな感じがするとのことで、前方継続中。

考案:現代医学的治療が無効で、長期間続いているめまいは漢方でも難治なことがあるが、この症例では約2週間後には改善を認め、それ以外の肩こり等諸症状も改善し体調も良好になっている。処方の選択に際しては、胸脇苦満と片側の腹皮拘急、腹力中等度というところから四逆散を選択した。また、めまい口渇などの水毒徴候から五苓散を合方した。四逆散との鑑別ということになると、柴胡剤すべて、特に柴胡桂枝湯、抑肝散などが対象となるが、虚実、腹証などからこの症例は四逆散証であると判断した。また、五苓散との鑑別としては苓桂朮甘湯があげられるが、苓桂朮甘湯には通常口渇は認めない。

                                          金匱会診療所所長
                                               山田享弘