漢方治療の実際

★冷え★

〔冷えとは?〕
①低体温:食後の体温が36℃以下
②下半身、手先などの自覚的冷感
③上半身のほてり感:ほてりとは、冷えというダメージを受けた事に対して血管を拡張させ      血液循環を必要以上に活発にさせた身体の防御反応である。
④半身と下半身の体温差大きい状態

〔冷えの起こる原因〕
  現代医学的原因
自律神経機能の失調による、血管運動機能障害から末梢循環不全が起こると考えられる。
基礎疾患として甲状腺機能低下症、膠原病、糖尿病性末梢神経障害、閉塞性動脈硬化症などの血管疾患などが存在する可能性も考える。

  漢方的原因
気血水の不調和による。
気鬱、瘀血、水毒などにより冷えは起こると考える。
血、水は気の主導によって巡っているため、気のめぐりが悪い気鬱の状態は冷えを起こす。
女性では、特に瘀血が重要になる。

〔冷えにより発現する病気・症状〕
婦人科:月経困難症、月経不順、不妊症、帯下
消化器:下痢、便秘、腹痛、痔
疼痛性疾患:頭痛、腰痛、肩こり、関節痛、神経痛、こむらがえり
泌尿器:頻尿、膀胱炎、夜間頻尿
皮膚科:凍傷、寒冷蕁麻疹、浮腫
呼吸器:気管支喘息、アレルギー性鼻炎
その他:不眠、易疲労、風邪に罹患しやすい、自律神経失調症

〔冷えから身体を守る為に〕
冬の対策:室温を上げすぎない(22~23℃にする)、身体を冷やす食べ物を取らない、腰から下をしっかりガードする。
夏の対策:冷房を調節する(外気との温度差を5℃以内とする)、冷たい物を取りすぎない、クーラーの中では膝から下をガードする。
適切なダイエットは必要だが、無理なダイエットはしない。
ぬるめのお湯でゆっくりと入浴(半身浴)する。
食べ物の注意:フルーツ、生野菜、砂糖の取りすぎ、過食に注意。朝食を取ることは重要。
適度な運動:ウォーキングなどの有酸素運動は有効
ストレスによる心身の緊張は血管収縮をおこし末梢循環障害による冷えを引き起こす。ストレスをためないこと。

〔冷えに対する漢方治療〕
漢方の診察法により、気血水の異状を診断し、漢方薬(気剤、利水剤、駆瘀血剤)により気血水のバランスを整える。
補剤(参耆剤)により体力、抵抗力を補う。
人参剤により胃腸の機能を高める。
附子剤により新陳代謝を亢進させ、身体を温める。

〔冷えに対する頻用処方〕
①当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
 四肢の冷え、貧血、動悸、めまい、月経異常
②当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
 四肢の強い冷え、凍傷、頭痛、下腹部痛
③加味逍遥散(かみしょうようさん)
 冷えのぼせ(ホットフラッシュ)、不眠、不安感、いらいら、肩こり
④苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)
 腰から下肢の冷え・痛み
⑤人参湯(にんじんとう)
 胃の冷え、胃痛、下痢、食欲不振、頻尿
⑥真武湯(しんぶとう)
 腹の冷え、下痢、めまい


〔冷えの症例 当帰四逆加呉茱萸生姜湯〕
症例:52才 女性
主訴:冷え

現病歴:以前より手足の冷えが強かったが、今年は夏でも手首、足、腰の冷えが強く、足はジンジンする。体が冷えると寝付きが悪くなり、肩が凝り、頭重が出る。風邪をひきやすい。

現証:身長150cm、体重40kg。脈証:沈・小。腹証:腹力弱、 その他特記すべきこと無し。

経過:平成X年9月初診。当帰四逆加呉茱萸生姜湯加附子2.0g投与。前方服用後、冷えは大分改善したが、週末に疲労してくると冷えが増強し、その時は足先がジンジンしてくる。10月になり便秘ぎみとのことで、前方加大黄0.3gとする。10月下旬、風邪をひき麻黄細辛附子湯投与。いつもは風邪を引くと1ヶ月以上長引くが、今回は薬を飲んだら2,3日で治ったと喜んでいる。その後冬になっても冷えはあまり増強せず、ただ疲労すると足先がジンジン冷えるという。春夏になっても前方を休むと冷えが増強するとのことで、現在も前方継続中。


                                           金匱会診療所所長
                                                 山田享弘