漢方治療の実際

★ 変形性膝関節症

 この疾患には、基本として防已黄耆湯を用います。疼痛が強い場合は、実証ならば麻黄を加えるか、または麻黄剤を合方します。虚証ならば附子を加えるか、附子剤を合方します。

     変形性膝関節症の頻用処方

 実証   防已黄耆湯合越婢加朮湯

 中間症  防已黄耆湯合麻杏薏甘湯
       防已黄耆湯合桂枝二越婢一湯

 虚証   防已黄耆湯合桂枝加朮附湯
       防已黄耆湯合桂枝加苓朮附湯


     変形性膝関節症の症例

症例:75才 女性
現病歴:平成X年8月正座をしたところ両膝に疼痛発現。某大学病院整形外科にて変形性膝関節症と診断され、ロキソニン投与されたところ胃痛出現したため漢方治療を希望して来院。
初診:平成14年9月6日
現証:身長152cm,体重53kg 血圧120/78mmHg 両膝関節に腫脹、熱感を認める。
   腹証:腹力中等度、右に軽度の胸脇苦満を認める。脈証:沈、小。
経過:初診時、防已黄耆湯投与。約1ヶ月で歩行時の膝関節痛はほぼ消失。階段を下るときに少し痛むことが時々ある位で平成15年3月まで同方服用。3月になり忙しくしていたところ腰痛が発現。4月11日より解労散合防已黄耆湯とする。2週間後には腰痛軽減。その後同方継続していると腰は重い感じが出ても痛みまではいかない。腰痛全くないときは防已黄耆湯のみ、腰が重い感じになると解労散合防已黄耆湯として現在も継続中。
考案:当症例は、以前胃潰瘍に対して現代医学的治療だけではなかなか改善せず、漢方治療により急速に治癒した患者が、変形性膝関節症に対して消炎鎮痛剤を出され、胃炎症状を起こし漢方治療を希望したものである。腹力は中等度だが、やや水太りの体型で、防已黄耆湯の正面の証と考えられる。また、途中で腰痛症が発現したが、胸脇苦満もあり、また、胃があまり丈夫でないため八味丸などの地黄剤も使いにくいことを考慮して解労散を合方した。解労散(楊氏家蔵方)は四逆散加減法で、疲労性の腰痛などに効果のある薬方である。腹証は四逆散と同様で胸脇苦満と腹直筋の攀急(片側のことが多い)、心下痞鞕などが認められることが多い。




                                      金匱会診療所所長
                                            山田享弘