薬草のお話 7


第68回 平成15年1月   竜眼肉(リュウガンニク)

 生薬・竜眼肉はムクロジ科(Sapindaceae)のリュウガン Euphoria longana Lamarck の仮種皮です。中国の古い書物である本草綱目(ほんぞうこうもく)には竜眼(龍目)と言うは形によるものとあります。また、竜眼は別名・益智といい、これはよく人の智を益するからとあります。
 竜眼肉は滋養、強壮、鎮静の作用があり、精神障害、不眠症、健忘症、食欲不振、貧血などに応用しています。成分は糖、酒石酸などの有機酸で、薬理作用は変異抑制作用の他は、ほとんど分かっておりません。
 竜眼肉の含有される漢方処方には帰脾湯(きひとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)、高枕無憂散(こうちんむゆうさん)などがあります。
 竜眼肉は淡褐色で、柔靱、粘着性があり、特異の香気がある。味は甘く、果肉に潤いがあって、軟らかい質のものが良品です。市場品はタイ国産、台湾産、中国産が主なようです。(針ヶ谷哲也)



第69回 平成15年2月   枸杞子(クコシ)

クコと言えば中華料理や薬膳料理・薬用酒など様々な形で利用されている生薬なので、ご存知の方も多いことと思われますが、当然漢方薬の一つなのです。しかし、食べたときに甘く、色もきれいなためか、薬以外での用途の方が多い生薬でもあります。
 生薬・枸杞子はナス科(Solanaceae)のクコ Lycium chinense Miller 又は L. barbarum Linne の果実を乾燥したものです。また、クコの根皮を地骨皮(じっこぴ)として漢方処方に、葉を枸杞葉(くこよう)として民間的に用いています。
 枸杞子は強壮薬として、気を益し、血を補い、胃を健やかにし、目を明らかにする効があるので、各種消耗性疾患、めまい、頭痛、糖尿病、口渇、眼精疾患などに応用されています。
 薬理作用としては血糖値降下作用、脂質代謝改善作用、肝機能保護作用などが認められており、成分としてはカロチノイド、ビタミンB1・B2・C、ニコチン酸、ステロールなどが報告されています。
 枸杞子が配合されている漢方処方には杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)、枸杞丸(くこがん)などがあります。 枸杞子は特異なにおいがあり、果皮は赤色〜暗赤色を呈し、味は甘く、後わずかに苦い新鮮なものを良品とします。市場品としては中国産(寧夏など)がほとんどです。(針ヶ谷哲也)



第70回 平成15年3月   升麻(ショウマ)

 生薬・升麻はキンポウゲ科(Ranunculaceae)のサラシナショウマ Cimicifuga simplex Wormskjord またはその他同属植物の根茎です。
 升麻には消炎、解熱、発汗、鎮痛、止血の効果があるので、痔、口内炎、歯痛、発熱性疾患、扁桃炎、皮膚疾患、痛風などに応用されます。
 升麻の薬理作用としては鎮痛作用、鎮静・鎮痙作用、解熱作用、抗炎症作用、降圧作用などが認められています。成分としてはトリテルペノイド、ステロイド骨格を有するものなどが報告されています。
 升麻の含有される漢方処方には乙字湯(おつじとう)、升麻葛根湯(しょうまかっこんとう)、辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)、補中益気湯(ほちゅうえきとう)、清熱補気湯(せいねつほきとう)、立効散(りっこうさん)、紫根牡蛎湯(しこんぼれいとう)、当帰拈痛湯(とうきねんつうとう)などがあります。
升麻は質が軽くて、堅く、味が苦くて、やや渋いものを良品とします。市場品は中国産(河北省、吉林省、遼寧省など)がほとんどのようです。(針ヶ谷哲也)



第71回 平成15年4月   丁香(チョウコウ)

 生薬・丁香はフトモモ科(Myrtaceae)の Syzygium aromaticum Merrill et Perry の花蕾を乾燥したものです。左の写真のように非常にユニークな形をした生薬ですが、スパイスとしてもクローブの別名を持ち、こちらの方が皆さんには馴染みが深いことと思われます。また。チョウジ油の原料としても知られています。
 丁香は芳香性健胃薬で興奮薬にもなり、止痛作用もあるので、胃炎、胃潰瘍、胸腹痛、しゃっくり、打撲、精神障害などに応用されます。成分としては精油、フラボノイド、トリテルベン、タンニン、脂肪油などが含有されております。薬理作用は利胆作用、止瀉作用、抗炎症作用、抗菌・抗ウイルス作用、鎮痙作用などが報告されています。
 丁香の含まれる漢方処方には治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)、女神散(にょしんさん)、丁香柿蒂湯(ちょうこうしていとう)、丁香茯苓湯(ちょうこうぶくりょうとう)、丁香呉茱萸湯(ちょうこうごしゅゆとう)、丁附理中湯(ちょうぶりちゅうとう)などがあります。
 丁香は強い特異な匂いがあり、味はやくようで、後にわずかに舌を麻痺します。肥大して、芳香性の強いものを良品とします。生薬として  の市場品はインドネシア産、アフリカ産が主なようです。(針ヶ谷哲也)




第72回 平成15年5月   茵陳蒿(インチンコウ)

生薬・茵陳蒿はキク科(Compositae)のカワラヨモギ Artemisia capillaris Thunberg の頭花です。秋にカワラヨモギの花穂を収穫したものが茵陳蒿ですが、春に若い嫩葉(ドンヨウ)を採集したものを綿茵陳と称して同様に使用します。しかし、日本薬局方では茵陳蒿のみで綿茵陳は収載されておりません。
 茵陳蒿は口の渇きを止め、尿利を増し、胆汁の分泌を促すので、肝炎、黄疸、腎炎、痛風、皮膚掻痒症、二日酔いなどに応用されます。民間用法としては、皮膚の痒みに煎液を外用にしています。
 茵陳蒿の薬理作用としては肝障害改善作用、利胆作用、脂質代謝改善作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用、抗菌作用などが認められております。成分としては精油、クロモン類、フェニルプロパノイド類、クマリン類、フラボノイド類などが報告されています。
 茵陳蒿の含まれる漢方処方には茵陳蒿湯(いんちんこうとう)、茵陳五苓散(いんちんごれいさん)、当帰拈痛湯(とうきねんつうとう)などがあります。
茵陳蒿は新鮮なものを良品とします。また、古書によっては綿茵陳を良品としています。市場品は日本産(長野県など)、中国産(山東省など)が主です。(針ヶ谷哲也)



第73回 平成15年6月   檳榔子(ビンロウジ)

生薬・檳榔子はヤシ科(Palmae)のビンロウ Areca catechu Linne の種子です。檳榔の名称の由来ですが、中国の本草綱目(ほんぞうこうもく)という本には『賓と郎はいずれも貴客の称であって、稽含(けいがん)の「南方草本状」に「交、廣では、一般に貴い勝れた族客には、必ず先ずこの果を差し出すことになっていて、どうかしてこの果を供えないことがあると、甚だ禮を尽くさぬものとして感情を害する」とあるところを見ると、檳榔なる名称の意味は蓋し此に取ったものであろう』と記載されています。
 また、インド、東南アジア諸国では檳榔子の切片に、阿仙薬(アセンヤク)、石灰、ときには小豆ク(ショウズク)を混ぜ、これをキンマの葉で包み、ガムのように噛んで、咀嚼性嗜好品として賞用しています。
 檳榔子には健胃、整腸、消化、行気、利尿、解毒、収斂、駆虫の効果があり、腹痛、腹満、便秘、下痢、浮腫、精神障害、腫瘤などに応用されます。
 檳榔子の薬理作用としては中枢・副交感神経興奮作用、降圧作用、抗寄生虫作用、抗虫歯菌作用などが報告されており、成分としてはアルカロイド、ステロイド、タンニン、精油、アミノ酸などが知られています。 
 檳榔子の含有される漢方処方には女神散(にょしんさん)、延年半夏湯(えんねんはんげとう)、変製心気飲(へんせいしんきいん)、九味檳榔湯(くみびんろうとう)、十六味流気飲(じゅうろくみりゅうきいん)、四時加減柴胡飲子(しじかげんさいこいんし)などがあります。
 檳榔子は褐色の種皮が白色の胚乳中に入り込んで大理石様の紋理を呈し、質は堅く、味は渋く、やや苦いです。市場品はインドネシア産、中国産(広東省など)が主です。

(針ヶ谷哲也)




第74回 平成15年7月   木香(モッコウ)


生薬・木香はキク科(Compositae)の Saussurea lappa Clarkeの根です。中国の古い薬の書物である神農本草経(しんのうほんぞうけい)には蜜香の名で収載されていますが、現在は木香(広木香)と呼ばれています。これは『木香は草類であって、蜜のような香気があるところから本来は蜜香と言ったが、沈香の中にも蜜香があるので、これを遂に誤って木香と呼ぶようになった』とあります。
 木香は漢方的には気の巡りを良くし、消化を助け、下痢を止める効があり、精神障害、胃炎、胃潰瘍、腸炎、感冒、咳、喘息、浮腫などに応用されています。
 木香の薬理作用としては中枢抑制作用、抗潰瘍作用、整腸作用、利胆作用、抗菌作用などが知られており、成分としては精油、アルカロイド、タンニンなどが報告されています。
 木香の含有される漢方処方には帰脾湯(きひとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)、女神散(にょしんさん)、参蘇飲(じんそいん)、九味檳榔湯(くみびんろうとう)、十六味流気飲(じゅうろくみりゅうきいん)、喘四君子湯(ぜんしくんしとう)、分消湯(ぶんしょうとう)などがあります。
 木香(広木香)は質が堅く木質化し、折れにくく、特異の芳香があり、味は苦いです。その他に、川木香、土木香、青木香と称する類似生薬がありますので注意が必要です。青木香を誤って使用してしまうと、アリストロキア酸が含まれているため腎炎などの副作用を起こす可能性があります。市場品は中国産(雲南省)が主なようです。(針ヶ谷哲也)



第75回 平成15年8月   杜仲(トチュウ)


 最近は杜仲茶としての方が有名になってしまいましたが、漢方薬原料生薬としての杜仲はトチュウ科(Eucommiaceae)のトチュウ Eucommia ulmoides Oliver の樹皮を用いています。この樹皮はガムのように伸びる糸を引くのが特徴(硬性植物ゴム質という)ですが、葉っぱにもこの傾向があり同様の成分によるものと考えられ、今日の杜仲茶が生まれました。しかし、漢方薬としては現在も樹皮のみを使用します。
 名前の由来としては『昔、杜仲という人が、これを服して得道したというのに因んで名とした』とされています。
 漢方では杜仲に強壮、鎮痛、血圧降下作用があるとされ、神経痛、関節痛、リウマチ、四肢軟弱、麻痺、腰痛、高血圧などに応用しています。
 杜仲の薬理効果としては血圧降下作用、抗ストレス作用、利尿作用、虚弱病態改善作用が報告されており、成分としてはグッタペルカ、アルカロイド、ペクチンなどが含有されています。
 杜仲が含まれる漢方処方には大防風湯(だいぼうふうとう)、独活寄生湯(どっかつきせいとう)、痿証方(いしょうほう)、補陰湯(ほいんとう)、加味四物湯(かみしもつとう)、八物降下湯(はちもつこうかとう)などがあります。

 杜仲は皮部が厚く、文頭にも述べましたがよく糸を引くものが良品とされています。市場品は中国産(湖北省など)が主です。(針ヶ谷哲也)



第76回 平成15年9月   縮砂(シュクシャ)


生薬・縮砂はショウガ科(Zingiberaceae)の Amomum xanthioides Wallich の種子の塊です。日本にも伊豆縮砂と言うものがありますが、ハナミョウガ及びアオノクマタケランの種子で、漢方では使用しません。
 漢方では、縮砂には健胃、鎮痛の効があるので、胃炎、胃潰瘍、食欲不振、消化不良、腹痛、下痢、精神神経障害などに応用しています。
 薬理作用としては制酸作用・利胆作用・筋弛緩作用・プロスタグランジン生合成阻害作用が報告されています。また、成分としては精油成分が主に知られています。
 縮砂の含有される漢方処方には安中散(あんちゅうさん)、香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)、香砂平胃散(こうしゃへいいさん)、香砂養胃湯(こうしゃよういとう)喘四君子湯(ぜんしくんしとう)、参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)響声破笛丸(きょうせいはてきがん)などがあります。
 縮砂は多角形の顆粒状で、噛むと樟脳様の匂いがあり、味は辛いです。新鮮で匂いの強いものを良品とします。市場品としてはタイ産(ラオス)、ベトナム産が主です。

(針ヶ谷哲也)




第77回 平成15年10月   木通(モクツウ)


 木通はアケビ科(Lardizabalaceae)のアケビ Akebia quinata Decaisne 又はミツバアケビ A. trifoliata Koidzumi のつる性の茎を通例、横切りしたものです。アケビは小葉が5枚ですが、よく似た植物に3枚のミツバアケビがあります。薬効に変わりはありませんが、ミツバアケビは椅子やバスケットなど(アケビ細工)を作るのにも用いられます。
木通は消炎、利尿、通経、催乳の効能があり、浮腫、排尿困難症、尿路感染症、月経不順、神経痛、関節痛などに応用されています。
木通の薬理作用としては利尿作用、抗炎症作用、抗消化性潰瘍作用、抗コレステロール血症作用などが報告され、成分としてはトリテルペン、サポニン、カリウム塩などが知られています。また、民間療法としては、おできにアケビの煎液で患部を洗うと良いとされています。
木通の含まれる漢方処方には当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)、五淋散(ごりんさん)、通導散(つうどうさん)、消風散(しょうふうさん)などがあります。
木通は放射状の紋理が著明で、横切面の灰白色ないし、黄白色のものを良品とします。また、木通にはウマノスズクサ科とキンポウゲ科の同名異品があります。特にウマノスズクサ科の木通(関木通)にはアリストロキア酸が含有され、重篤な腎障害を起こしますので注意が必要です。市場品は日本産(長野県、四国など)が主です。(針ヶ谷哲也)


 
第78回 平成15年11月   牛蒡子(ゴボウシ)


 牛蒡子は読んで字の如く、キク科(Compositae)のゴボウ Arctium lappa Linneの種子です。別名を悪実(あくじつ)または大力子(だいりきし)とも言います。牛蒡子をご存じない方は多いことでしょうが、ゴボウを知らない方はほとんどいらっしゃらないことでしょう。しかし、ゴボウの根を食べるのは日本だけの習慣のようで、昔は繊維ばかりで何の栄養もないと思われていました。ところが最近では、食物繊維は体にいいものとされ、むしろ多く摂るように心がけている人が多くなりました。
 牛蒡子には解毒、消炎、排膿の作用があるので、咽の痛い風邪、扁桃炎、浮腫、化膿性の腫れ物、皮膚疾患、歯茎の腫れなどに応用されています。民間用法としては8月頃、葉を採取して乾燥したものを、浴剤として麻疹やかぶれに用いています。
 牛蒡子の薬理作用としては子宮筋収縮作用、抗腫瘍作用などが報告されており、成分としてはリグナン誘導体・脂肪油などが知られています。
 牛蒡子の配合される漢方処方には柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)、消風散(しょうふうさん)、駆風解毒散(くふうげどくさん)、銀翹散(ぎんぎょうさん)、キョ風敗毒散(きょふうはいどくさん)などがあります。
 牛蒡子は横断面が長楕円形で、味は苦いです。新しくて、充実して、質の重いものを良品とします。市場品は中国産(吉林省、浙江省、湖北省など)が主です。



(針ヶ谷哲也)


第79回:平成15年12月    知母(チモ)


 生薬・知母はユリ科(Liliaceae)のハナスゲ Anemarrhena asphodeloides Bunge の根茎です。和名のハナスゲとは、穂状の花が淡紫色で、よく開花すると美しく、葉はスゲやススキに似ているためとされています。
 知母には滋潤(潤いを与える作用)、解熱、鎮静の効果があるので、アトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症などの各種皮膚疾患、糖尿病、風邪による高熱、咳、気管支喘息、不眠症、関節炎、関節リウマチ、腰痛などに応用されています。
 知母の薬理作用としては解熱作用、血糖降下作用、抗消化性潰瘍作用などが報告され、成分としてはサポニン、キサントン配合体、ビタミン類が知られています。
知母が含有される漢方処方には白虎湯(びゃっことう)、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)、消風散(しょうふうさん)、滋陰至宝湯(じいんしほうとう)、滋陰降火湯(じいんこうかとう)、辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)、酸棗仁湯(さんそうにんとう)、桂枝芍薬知母湯(けいししゃくやくちもとう)などがあります。
 知母は外面は黄褐色ないし褐色で、質は軽く折れ易いです。肥大し充実して、横切面の淡黄色で軟らかいものを良品としています。現在の市場品は中国産(河北省)が殆どです。

(針ヶ谷哲也)