「漢方精撰百八方」 1


   1.[方名] 甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)

[出典] 金匱要略   
[処方] 甘草5.0  大棗5.0 小麦20.0
[目標] 婦人蔵躁、喜悲傷哭せんと欲し、象(かたち)神霊の作す所の如く、しばしば欠伸(あくび)す、というのが目標で、蔵燥はヒステリーのことであるがら、ヒステリーの発作を起した時や、夢遊病のようなものに応用される。

[応用] ヒステリー症の発作。子どものねぼけ。舞踏病。
[かんどころ] この薬方はあまり日常用いられない。一般に漢方ことに古方の処方は証を厳密につかまないと適確な効果を得られないものであるが、この甘麦大棗湯はあまりはっきりした証がつがめないので用法が困難である。それであるからヒステリーの症状の場合でも、若し腹証を診て胸脇苦満があるようならば、むしろ小柴胡湯の類方をやった方が確実である。
 つまり腹証などに特にはっきりしたもののない場合で、神経症またはヒステリーの診断のついたものにこの甘麦大棗湯を使ってみるとよい。勿誤薬室方函口訣には本方の腹証として右の腋下臍傍の辺に拘攀や結塊のあるものに用いると効があるとあるが、オ血の証のことを言つているのであろうか。

[応用例] 矢数道明氏は本方を癲癇発作の猛烈なものに用いて卓効を得たと漢方百話に報告している。また、大塚敬節氏は「漢方治療の実際」の中で本方は右腹直筋のひどく突っぱっているものに効があるという。
 小児が夜中にふと起きて家の中を廻り歩きまたふと寐床に入って眠り、翌日そのことを知らないようなものに用いるとよいという。また、夜中に突然胸元が苦しくなつて喘でもなくアイ気でもない、今日でいえばヒステリー球のようなものに効があったという報告がある。

 治験例。四十才の独身の婦人で、看護婦をしていた者で、不眠症にかかり、自分勝手に新薬をむやみにのんでいるうちに、起き上ろうとすると目まいがしてふらふらとたおれそうになる。そんなふうで、たった一人でアパートに病臥して、自分で電気をつけることも出来ない。金もないので施療することとし、甘麦大棗湯をやったが二十日分ぐらいでどうやら自分で身の廻りのことが出来るようになった。
 
四十五才の男。長年ノイローゼ状態でー寸仕事につくとすぐやめてしまい、蒲団をがぶって寐ている。ひげもぼうぼうと生やしっぱなしで、殆んど周囲に無関心という無表情さである。甘麦大棗湯をやったところ、のそのそと起ぎ出して画をかいたりなにかしだしだ。   

相見三郎著

   2.[方名] 芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)

[出典] 金匱要略
[処方] 川芎 甘草 艾葉各3.0 当帰 芍薬各4.5 乾地黄6.0 阿膠
[目標] 子宮出血の有るもの、流産後続いて出血するもの、妊娠中出血するもの、妊娠中腹痛して異常妊娠の徴候のあるもの。
[かんどころ] 子宮出血、膀胱出血は時をうつさず応用する。

[応用] 当帰、芍薬、川芎、地黄は造血剤で、艾葉、阿膠には止血作用がある。甘草は諸薬を調和する作用をする。
 本方は子宮出血に最も屡々用いられるが、子宮出血には本方の他に桂枝茯苓丸が用いられる。また流産の前兆として出血する場合は成るべく早く本方を応用すると流産を未然に防止することが出来ることが多いのでまず試みるべきである。
 
 膀胱出血の場合にも応用される。六十才女。大学病院で膀胱癌と診断されて手術を指示され出血の著しかったものに本方を用いて二年ほど続けたが、出血が止まって一応癌も治ったように見える。
 腎臓出血にはいろいろの原因があるが、本方で出血のとまる場合が多い。腎臓結石で血尿を出すものに本方を与えたところ、出血が止まると共に腰部の疝痛もとれた例がある。これで見ると腎出血が止まるとその原因としての腎臓結石の方も同時に処理されるものと思われる。痔出血が猛烈で貧血を呈する場合がある。そんな場合でも本方で止まるのである。
 
 特発性腎出血というのがある。このものは原因不明のものであるが、自律神経失調の二症状と考えられている。この場合洋方では輸血のほか手のほどこしようもないが、本方をやって見ると僅か二、三日で止まることがあるから試みるとよい。
 また本方で潰瘍性大腸炎の出血が僅か一週間ぐらいの服用で止まった例もある。
 同じく出血でも、肺結核の喀血、胃潰瘍の吐血などには本方は適さないようである。
 
 文献的には方輿ゲイ(有持桂里)にすべての切迫流産に用いると流産を防止することが出来ると言っている。湯本求真氏は常習流産に本方を常用するとよいと言っている。
  また湯本氏は本方の腹証として左直腹筋撃急して按せば痛むものとしている。
[附記] 本方は七味から成っているが、最近西岡一夫氏が本方は四味が金匱の原方であると興味深い学説を立てている(日東誌 14.2)

相見三郎著

   3.[方名] 桂姜棗草黄辛附湯(けいきょうそうそうおうしんぶとう)

[出典] 金匱要略
[処方] 桂枝4.0 大棗4.0 甘草2.0 麻黄3.0 細辛3.0 附子0.5~1.0 生姜
[目標] 気分、心下が堅く、大きさ盤の如くで、辺旋杯の如し、これは水飲のためだという。これが桂枝去芍薬加麻黄附子細辛湯(本方の別名)の証である。
 
 本方の脈証として、寸口で遅でショク。ショク脈とは結代とまではいかないが渋る脈で、遅脈は裏寒、ショク脈は血不足というのだがら循環不良で手足が冷えるもので、全体として血色が良くない、それに腹満したり、胃腸にガスがたまって腹鳴したりする、また膀胱が充満して尿閉をおこす場合もある。栄衛惧に労すで、体全体が元気衰弱の徴候を呈する、陽気通ぜず身体の表面が冷える、体内の循環が悪くて身体内部が冷えるので骨が痛む、そのままの状態が進むと、表証としては悪寒、さむけが来るし、陰証としては痺不仁で上下肢が麻痺症状を起して来る、しかしここで陰陽が調和を得れば共の気すなわちめぐる(行)で、身体全体の健康状態が恢復ずる。つまり大気一転、其の気が散じて、さっぱりと治ってしまうというのである。気分というのはこのような症状を呈するもので、実証の人は腹満していたのがガスが出てなおるし、虚証の人は尿利がついて楽になる。

 気分というのは今日の言葉で言えば自律神経失調症というものであると思う。この気分の症状はワゴトニー(迷走神経緊張症)の臨床症状であるが、わたし自身で本証を経験した。ある目上の人に対して言わなければならないことがあるが、それを言うことは気まずい事になるので独り悶々としていた時、非常な腰痛が起きて歩くにも杖を使わなければならないほどで、寝ていても起ぎ上ることが困難で、胸元がつまり腹がはる、どうにもならないその時本方が飲んだところ、驚いたことには僅か二口分であれほどの腰痛がけろりとなおってしまつた。そこで本方を応用する機会をねらっていたところ、腰痛で身動きも出来ない婦人を往診する機会があった。脊推すべり症の診断で手術を要すると専門医に診断されていた患者だつた。そこで心境をたたいたところ、長男が評判の秀才で縁談が降るほどあるのを断っていたが、今度は先方から、しかも母親ッ子という理由で断わられたので悶々としていたことがわかったので本方を投じたところ、僅か一週間分であっさり全治してしまった。
 次に高校教員で腰痛で動けない、訊いてみると奥さんと何がモタついているらしい。そこで本方を投与したが僅か数日で全治した。

相見三郎著

   4.[方名] 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)

[出典] 傷寒論
[処方] 桂枝4.0 芍薬6.0 甘草2.0 大棗4.0 生姜
[目標] 本方の腹証は著しい特徴のあるもので、直腹筋が拘攀、つまりつっばるもので、いわゆる二本棒をふれるものである。
[かんどころ] 右の腹証のある者にはすべて本方をやって差支えないが、腹壁が軟弱なものにも本方証があるから一概に拘泥する必要はない。この腹証を基礎として他の症状を証としてつかんだものを合方していくことが確実で便利なもので、本方は運用範囲の最も広いものである。

[応用] 本方に膠胎を加えたものが小建中湯であるが、建中の中はおなかの意味であるがら、消化器のうちで特に腸を丈夫にするのが本方の主治である。
 本方は虚証の薬方の代表的なものである。これはわたし自身の感想であるが、屍体の腹部を触れてみると、直腹筋が丁度皮下に棒をさし込んだように硬くつっぱって触れるものであるが、この桂枝加芍薬湯証がこれに似た感じである。それでわたしぼ本方証として生活力(ヴァイタリティー)の低下を想定している。つまり内臓の”冷え”が本方の本体であると思う。

 子どもなどで突然腹がしくしくと痛む者で、またなおってしまうというようなことを繰返すもの、トイレに行つても便が出ないで出て来るような子にこの証がある。
 太陽病、つまり急性熱性病などでは下剤を使うことは禁忌なのに、下剤で下したために腹が張って痛む場合は太陰病になったのだから本方をやると傷寒論にあるのは、今日で言えば急性虫垂炎を間違ってヒマシ油で下して穿孔性腹膜炎を起したような場合のことを言うのであろう。
 下痢をするしないにかかわらず虫垂炎で本方でなおる場合が多い。

 胃下垂という病名をつけられる患者が多いが、レントゲン写真で胃下垂と診断することは差し支えないが、それで直ちに胃の縫縮術や胃の切除術を施すのは間違いである。胃下垂は内臓下垂の部分的現象であって、本方によって胃下垂症は大抵はなおってしまうものである。脱肛も同様に内臓下垂の部分的症状であるがら本方でなおるものが多い。
[附記方名] 桂枝加芍薬加附子湯。本方に附子0.5から1.0を加える。リウマチによい。

相見三郎著

   5.[方名] 桂枝加厚朴杏子湯(けいしかこうぼくきょうしとう)

[出典] 傷寒論
[処方] 桂枝4.0 芍薬4.0 大棗4.0 甘草2.0 厚朴4.0 杏仁4.0 生姜
[目標] 桂枝湯の証のあるもので、喘家、つまりがぜを引くとゼいぜいした咳をする者には厚朴、杏仁を加える。太陽病をまちがって下すと病気が悪化して咳をするようになる、その一時にこの方を与える。
[かんどころ] がぜをひくと喘息を起すようなものに本方が適する。
[応用] かぜは大別して二種類に別けられる。その一つは熱を出しても汗をかかないで頭痛や肩こりを訴えるもので、これには葛根湯がよく、かぜを引いてもあまり高熱を出さないで汗をかくたちのも、これには桂枝湯がむく、その桂枝湯の証でぜいぜいと咳をする者には本方が適する。
 喘息には普通小青竜湯が用いられるが、小青竜湯には麻黄があるがら虚弱体質の者には向かない、肺結核でもありそうな人の喘息には本方が適する。
 厚朴は胸満を治すものという。胸満というと上腹部の膨満感であるが、胸元がつまる感じがしてぜいぜいいうものに本方がきくわけである。これは喘息の場合うようなもので、喘息患者でも夜も横になれず坐ったままでぜいぜいしている場合がこの胸満にあたるわけであるが、そんな場合には本方をやつて見るのもいいであろうが、むしろ喘息の発作の場合にアドレナリン、エフェドリン、あたりで応急的に発作をやわらげてから、本方を飲ませるようにした方がよい。
 アレルギー性喘息の場合は、気管、気管枝に分泌物がたまるものであるがら、杏仁の去痰作用がそんな場合に過当しているから本方を用いるとよい。
 桂枝加厚朴杏子湯の応用は常に桂枝湯の証を握んでいることが必要である。桂枝湯の作用をー口で言えば解肌(げき)つまり皮膚の作用をととのえるはたらきである。すなわち体内に熱をもっている場含には適当に発汗させて熱を下げ、まだ汗が出すぎるものは適当に肌を引きしめて体温の調節をはかることを促すのである。また桂枝湯の脈は浮いているが緊張は強くない、むしろ軟弱である。また上衝(のぼせ)の傾向のあるもので、頭痛発熱があって、汗が出て寒むけのするもの、腹証には取り立てて特徴はない、というわけは桂枝湯は太陽病の証だがらである。すなわち本方は桂枝湯の証があって咳をするものに適用されるのである。

相見三郎著


    6.[方名] 桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)または桂枝加大黄湯(ケイシカダイオウトウ)

[出典] 傷寒論
[処方] 桂枝加芍薬湯に大黄を加える。
[目標] 桂枝加芍薬湯は桂枝湯証を誤って下したために腹部が膨満して腹痛するものに用いるとあるが、それを太陰病と祢する。この太陰病というのは嘔叶下痢腹痛などの症状をおこすものであるが、何か胃腸の内容に悪いものがあるためにそのような症状を起こすのではなく、胃腸に慢性疾患のある場合とか、慢性病による胃腸症状のような場合である。たとえば結核性腹膜炎のような場合にはたとえ嘔き下しても下剤を用いてはならないのである。ところが桂枝加芍薬湯の証でも大実痛といって腸内に病毒のある場は桂枝加芍薬大黄湯を用いるのである。
[かんどころ] 桂枝加芍薬湯の証としての直腹筋拘急の腹証があって、下腹部に圧痛を触知するものに本方を適用する。

[応用] 本方の適応症として最たるものは赤痢である。近来はオーレオマイシン、クロロマイセチンなど優秀な抗生物質が出来てからは赤痢もおそるべきものでなくなったが、それは赤痢菌に対する偉力ではあるが、赤痢病そのものに対する治療薬であるかどうかは別問題である。殊に目下耐性菌の問題が時の課題になっている時に、なるべく少量の抗生物質で有効な治療成績を得ることが要求される。そのためには抗生物質と共に本方を兼用することが有利である。

 腹満にはいろいろのものがあって、大別して実証の腹満と虚証の腹満がある。実証の腹満は上腹部にぎっしりつまった感じのするもので、大柴胡湯で下すものが多く、虚証の腹満には結核性腹膜炎の場含のようなもので、その場合には真武湯が適当するものが多い。その中間で腹筋の抵抗はあまりなく、腹がはってガスがたまるようなものにこの桂枝加大黄湯が適する。大黄は一応下剤として取扱われるが、ヒマシ油やラクサトールのように大腸を刺戟して蠕動を亢進して下すものでないので、盲腸炎(虫垂炎)の場合でも比軟的危険なく用いられるもので、必ずしも下剤としてはたらくものでなくガスだけを排出する場合もある。
 一般に便秘に西洋医学的下剤を連用することは習慣性になるから慎むべきで、本方などで便秘の原因から治療することが埋想的である。本方で痔殊に痔核を治療することは妙である。痔出血なども本方で案外簡単になおせるものである。

相見三郎著


    7.[方名] 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

[出典] 金匱要略
[処方] 桂枝4.0 茯苓4.0 桃仁4.0 牡丹皮4.0 芍薬4.0
[目標] 婦人で癥毒(ちょうどく)があるもの、つまり腹の中にしこりのあるもの、妊娠の初期に不正出血のあるもの、腫瘍性の婦人科疾患がある人が妊娠した場合。
[かんどころ] 本方の腹証は下腹部、殊に恥骨上部に圧痛があるものである。この腹証があって骨盤臓器に婦人科疾患があると認められるものはすべて本方をやってまず間違いない。

[応用] 本方は非常こ応用範囲の広もので、ことに産婦人科領域の疾患には不可欠である。
 婦人の癥病はさしあたり子宮筋腫、卵巣嚢腫などをさすものであろう。子宮筋腫に本方を用いると不思議に腫瘍が縮小する。本方で巨大な子宮筋腫が消失した例の報告もある。病理学的に筋腫がどういう変化を生ずるものであるかはわからないが、漢方処方の治験には子宮筋腫の縮小の場合のように説明のつきかねる治癒機転をとるものが随分ある。たとえば肝硬変の場合の腹水が漢方の処方で消失して臨床的に肝硬変そのものがなおってしまうような例である。
 卵巣嚢腫も本方で小さくなるし、触診上腫瘤を触れていたものが本方で全治し触知し得なくなった例も経験している。
 卵巣嚢腫でー方の卵巣を手術で除去され、他方の卵巣にも嚢腫があるから手術すると病院で指示されたものに、本方を与えたところ、妊娠して見事に出産した例もある。“金匱に癥痼妊娠を害す”とあるのがこのような場合を言うのであろう。
 妊娠初期の不正出血には本方がよく適当して、無事妊娠を継続する場合は屡々である。

 専門医に子宮癌初期と診断されたものが本方で全治した例がある。
 流産癖の妊婦に本方を与えて無事出産せしめた例もある。
 権威ある病院で乳癌と診断されたもので、本方であとかたもなくなおした数例を経験している。これを結果的に言えば本方は駆瘀血剤であるから、乳癌の本体的原因は“瘀血”であるとも言えると思う。

 本方には女性ホルモンを調整する作用があると考えられる。そのーつの根拠として本方で手掌角化症がよく治ることである。
 月経困難症も本方の主なる適応症である。

相見三郎著

    8.[方名] 桂枝芍薬知母湯(けいししゃくやくちもとう)

[出典] 金匱要略
[処方] 桂枝4.0 知母4.0 防風4.0 芍薬4.0 甘草2.0 麻黄3.0 白朮4.0
     附子0.5~1.0 生姜
[目標] 諸肢節疼痛、身体オウ羸(病弱で瘠せてよろよろする)、脚腫脱するが如く、息切れがしてむかむかして吐き気のするものに本方が適する。
[かんどころ] 慢性関節炎、畸型性関節リウマチで関節のふしくれ立ったものに本方が効く。

[応用] 本方は比較的頻用される処方で、殊にの肩胛関節の痛むものによい。
 結核性肩胛関節炎。結核性体質の者で肩胛関節炎を患うものでレントゲン写真で特に関節面破壊像の認められないものに本方を与えると比較的短時日に治癒することを経験するが、元来が結核性関節炎の初期はその鑑別が困難なものであるから、いきなりギブスで固定することをせず、一応本方で治療してみることを奨める。
 防風は風を治し湿を去る、一身尽く痛むを治すとあり、発汗解熱鎮痛の作用がある。知母には滋潤鎮静の作用があるので、慢性炎症に応用される。
 本方の処方構成は葛根湯に類似している。すなわち葛根湯の葛根の代りに防風が、大棗の代わりに知母が入ったものが本方であるから、本方は葛根湯証の慢性化したものとも考えられ。
 本方に類似の方として葛根加朮附湯、越婢朮附湯、桂枝加苓朮附湯があるが、普通の関節リウマチにはこれ等の諸方が適する。

 45才女。顔がかっかとほてる、右肩が痛く、疲れ切った感じである。本人は四年前結核性腹膜炎を患い、腹水がたまったのを真武湯を投与して五ヵ月で治癒せしめたことがあるが、未だに顔色が悪く元気がない、そこで桂枝芍薬知母湯を与えたところ一週間分で肩の痛いのは治ったが、顔面に湿疹が出来て痒いと言って来た。そこで桂枝加黄耆湯をやったところ一週間の服薬で治ったが、今度は頭痛がして肩がこるという。そこで葛根湯を投与してーヵ月して全治した。本例からしても本方と葛根湯との近似性が認められる。
 60才男。十ヶ月前から心臓が悪く、腰痛と左肩のつけ根が痛い。四十肩と診断されたが治らない。本方投与一ヶ月で全治した。

相見三郎著




    9. [方名] 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)

[出典] 傷寒論
[処方] 柴胡4.0 桂枝4.0 黄?3.0 人参3.0 芍薬5.0 甘草2.0 半夏5.0 大棗4.0 生姜
[目標] 急性疾患の急性期を経過した後に微熱があり、心下部がつまった感じがして嘔気がしたり、神経症状を起こしてうわごとをいったりする者に用いる。また心腹卒中痛の者。
[かんどころ] 小柴胡湯の証で虚証がかったもの、つまり小柴胡湯証と小建中湯証の重複したような証。

[応用] 本方は非常に興味のある処方で、わたしの経験では今日の副腎皮質ホルモンの適応症の殆んど全部が本方の証であるように思われる。
 まずてんかん(癲癇)であるが、殆んどすべてのてんかんは本方証であることを経験している。そして日本東洋医学会誌13.4に報告し、昨年十一月までの症例(第15回日本綜合医学会報告)では、取扱例38例中全治24例、軽快継続2例、軽快1例、中止4例、廃療7例で、ほぼ本方で癲癇を全治せしめ得る自信を得た。傷寒論小柴胡湯の条文に「血弱気尽きそう理開き、邪気因って入り正気と相搏り、脇下に結び、正邪分争、往来寒熱、休作時有り、云々」とある休作とは癲癇の発作に当たり、正邪分争は自律神経失調状態のことで、それが気力減弱、適応失調の桂枝加芍薬湯証を基盤として起るのが癲癇であると理解されると思う。

 チック症も今日は自律神経症と理解されているが本方でこれを治している。
 夜尿症は小児ばがりでなく成人にもあるもので、病院で手術までしてもどうにもならないものを本方の一発で全治せしめた経験もある。
 小児の自家中毒症も自律神経失調症のーつと認められるが、本方で簡単になおっている。
 一般にノイローゼといわれるものも間脳性疾患と思われるが、本方で恢復するところを見ると、西洋医学的に単に臓器に病理学的変化を証明できないからと言って身体的疾患でないと判断することは早計であろう。
 胃下垂も単に胃の形態学的変化だけで胃切除などを行なうべきものではない、本方で胃下垂の愁訴が解決するところからしても胃下垂は自律神経失調の局所的表現と見るべきであろうと思う。
 精神身体医学で最も興味のある潰瘍性大腸炎を頓挫的に本方で全治せしめた例もある。其他蕁麻疹、腰痛、リウマチ、起立性調節障害、円形禿頭、喘息、偏頭痛等々。

相見三郎著


    10. [方名] 小建中湯(しょうけんちゅうとう)

[出典] 傷寒論
[処方] 桂枝4.0 芍薬6.0 大棗4.0 甘草2.0 膠飴20.0 生姜
[目標] カゼなどの急性外因性疾患で、脈は軽くおさえると渋滞し、強くおさえると弦で弾力性の張りがない脈で、腹中急痛する者に本方が適する。弦は少陽の脈であるから本方の奏効しない場合には小柴胡湯を投与する。また動悸があって熱のある場合に本方が適する。
 気力ががなく、腹痛があり、動悸して鼻血を出したり、夢精したり、四肢が痛む,手足がほてる、口が乾く等の者に本方が適する。また小便が頻数で皮膚につやがない、また妊婦の腹痛の場合にも用いられる。
[かんどころ] 右の証の表現は複雑なようであるが、本方は一般に直腹筋拘急の腹証のあるものに応用すれば間違いない。

[応用] 小建中湯とは建中のまり胃腸を丈夫にする薬金で、胃腸の弱い人にはすべて応用される。殊に子供などで、とりとめて胃腸病でもないのに腹のしくしく痛むもの、便意を催してトイレに行くが通じがないまま出て来るとまた行きたくなるというようなのには本方をやればてきめんに効く。そのような子供は虚証の体質で疲れやすい。大人でも時々腹痛を訴えたりして癌ノイローゼになっているようなのに本方をやると簡単になおってしまう。

 老婦人などで頻尿で外出も出来ないようなのに本方をやるとなおる場合が多い。
 冷え性で夜も寝つけないという者に本方をやるとポカポカして良く眠れるようになる。
 胃下垂は近頃は手術で胃を切除することをすすめられる場合が多いが、そんな場合本方をやるだけでなおってしまうものが多い。常習性下痢も本方でなおる。
 胃潰瘍、十二指腸潰瘍で病院で胃切除を指示された者でも大低は本方をやるだけでその必要もなく治ってしまう。

 小児喘息は虚弱体質の子どもに多いものであるが、本方の腹証のある小児喘息ならば、本方をやるだけで治る場合が多いもので、麻黄の入った処方はむしろ用いない方がよい。
 カゼをひきやすい体質の人には平素から本方を運用しているとカゼをひかないようになる。
 黄耆建中湯で肋骨カリエスを手術せずに全治せしめた二例を経験している。

相見三郎著