漢方治療の実際
★ 過敏性腸症候群
この疾患の主症状は、腹痛、下痢および便秘で、下痢と便秘を繰り返すこと場合もあります。この疾患では腸の粘膜に炎症や腫瘍などの器質的病変がなく、ただ腸の動きよって腹痛や便通異常などといった症状が現れます。これは、ストレス、自律神経の失調、といったことが原因で起きてきます。漢方では、この下痢と便秘との両方に効果のある方剤が色々とあります。これは、漢方薬がお腹を温め、腸の動きの調整をしてくれるばかりでなく、心や自律神経の安定にも効果があるためです。
過敏性腸症候群に頻用される漢方処方
中間症 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)・甘草瀉心湯(かんぞうしゃしんとう)
胃部につかえ感があり、食欲不振などの胃症状がある場合
桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)
便秘が中心で、腹痛が強い場合。
虚証 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
過敏性腸症候群の第1選択的な処方で、下痢にも便秘にも用いられる。
大建中湯(だいけんちゅうとう)
腹部の膨満感が強く、強い腹痛を伴う場合。最近では外科でイレウスに頻
用されている。
中建中湯(桂枝加芍薬湯合大建中湯)
慢性に繰り返す腹痛、下痢、便秘に用いる。
この処方は、当診療所の初代所長、大塚敬節翁の創作です。
陰証 真武湯
全身に冷えがあり、特に下腹部が冷えて、水様下痢のある場合。
真武湯合人参湯
真武湯の症で、上腹部の冷えも強く、食欲不振がある場合。
この他にも気剤と呼ばれる精神症状、自律神経などを調える薬を使う場合もよくあります。
また、この疾患の場合、まずお腹を冷やさないことが重要です。お腹が冷えると胃腸の動きが悪くなり、症状が悪化します。
食べ物もお腹を冷やすような冷たい物、生野菜、フルーツなどは控えた方がよいでしょう。
金匱会診療所所長
山田享弘